届屋ぎんかの怪異譚
パキッ、と鳴ったその軽い音は、神経を研ぎ澄ませていないと気がつかないほど小さく、けれどたしかに少年の耳に届いた。
――それは、枝を踏み折った音だ。
頭で考える間も無く少年は身を翻す。
次の瞬間には、その左肩に矢が刺さっていた。
ちょうど、心の臓をわずかにずれた位置に。
「二人とも、走ってください!」
よろめく少年は叫んだ。
何が起きたか整理できていないのだろう。
戸惑いに眉をひそめた山吹の手を取って、月詠は走り出す。
そんな二人を、草陰に隠れていた郎党たちが姿を現して追いかける。
せめてもの足止めにと、少年は肩をかばいながら短刀で郎党たちの背を狙った。
しかし、横から伸びてきた手が少年の右手を掴み、捻りあげる。
痛みに呻きながらその男を睨みつけた。
――その男は。
「おまえはたしか、白檀の飼っていた忍か」
(萱村、秀英……!)
暗い森の中、それでもその顔を見間違えようもなかった。
切れ長の目が朔によく似た男の顔を。