届屋ぎんかの怪異譚
おそるおそる尋ねた銀花に、青年は小さく頷いた。
そして視線だけを動かして銀花を見下ろすと、
「怪我がないなら自分で立て。邪魔だ」
とだけ言って、抱きかかえていた銀花を問答無用で地面に降ろしてしまった。
青年はそのまま身を翻して駆け出そうとする。
銀花はほとんど反射で、「待って!」と青年を呼び止めた。
「どこへ行くの? 危ないわ」
青年は腕に覚えがあるのだろうが、どくろが銀花に集中していた先ほどまでとは訳が違う。
がしゃどくろは今や腕を失ったことに怒り狂い、青年を見る眼窩には憎悪の炎が宿っている。
だが、青年は迷惑そうに銀花を一瞥し、
「死にたくなかったら下がってろ」
と言うと、腰に差した刀を鞘から抜き放った。
その刀を見て、銀花は目を見張った。