届屋ぎんかの怪異譚
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涙が止まらなかった。
後から後から溢れて止まらなかったから、銀花は途中で袖で拭うのをやめた。
流れるにまかせ、ただ呆然としていた。
落ちる涙が着物の膝を濡らすのをただ見ていた。
「山吹が、その後どうなったのかは、おそらく白檀しか知らない」
銀花の頭を優しく撫でながら、玉響は言った。
「その後、白檀と会えたのはたった一度きりだった。あの日からひと月経った頃だったよ。そのときに、山吹が死んだと、それだけ聞いた。どんな最期だったのかは、答えてくれなかった」
「そう……、そうなんですね」
「それからすぐ、わたしは仕事で江戸を出なくちゃいけなくなってね。赤ん坊の銀花を山吹の母上のところへ連れて行った」
ようやく収まりつつある涙を拭いながら、銀花はもう亡くなってずいぶん経つ祖母の顔を思い浮かべた。
「……山吹はね、おばさんに反対されて半ば家出するみたいに月詠と一緒になったから、正直なところ、月詠の血を継いだ銀花をおばさんがどう扱うのか、心配だったんだ。
すこしでも妖の血を厭うようだったら、わたしが引き取って育てようかと思っていたんだよ。そんな心配は必要なかったけどね」