届屋ぎんかの怪異譚
自分のことをそこまで考えていてくれた玉響の言葉に胸が熱くなった。
「それからわたしは江戸のまわりを仕事でうろうろしながら、時々江戸に帰って萱村の噂を集めたり、銀花の様子を見にいったりしてた。
おばさんは店を閉めて、銀花を連れて旅の薬屋をしていたけど、時々は江戸に出入りしていたから、待っていれば会えたんだ」
江戸の大通りに面したいい場所に、祖母がどうやって店をこしらえたのか、ずっと疑問に思っていた。
祖母はずっとこつこつとお金を貯めていたからだと言ったけれど、実際は、最初からあったのだ。
水月鬼の力を抑えられない幼い銀花の正体が江戸の人々に知れ、万が一にも萱村の耳に入ることのないように、祖母は江戸を出た。
最初から行商をし続けてきたかのように、銀花には嘘をついて。
今さら知った祖母の優しさに、引っ込んでいた涙がまた溢れそうになって、銀花は目を閉じた。
「あたし、帰ります」
まぶたを強く閉じて、開いて、銀花は言った。
「今、すぐに会いたい人がいるから」
白檀に仕え、山吹と月詠を守ろうとしてくれた、あの記憶の持ち主。
――彼を、銀花は知っていた。