届屋ぎんかの怪異譚



「善処はするわ」



銀花の言葉に、返事はなかった。


ただ、小さく笑ったような気配がしたのを最後に、かずらの声はぷつりと途絶えた。



「それで、銀花。これからどうするんだ?」



改めて問いかける玉響も、薄々わかっているのだろう。



答えようと、銀花が口を開いたそのとき。



――かすかな足音が、銀花の耳に届いた。



普段ならすこしも気にならないような足音に、やけに胸が騒いだ。



時間はもう月の上りきった真夜中。

――「あんなこと」があった後の、真夜中だ。



まさか、という思いが胸をよぎり、気がつけば銀花は家を飛び出していた。



予感は的中した。



「….…朔、猫目っ!」



夜の闇の中、青白い月の光に照らされた二つの背中は、銀花の声に驚いたように振り返った。



「銀花、おまえ、起きて……」



「朔、どこに行くつもりなの」



朔の言葉を遮って、銀花は問いただす。



「……べつに、どこでもいいだろ」



そっけなく返す朔は、銀花の目を見ない。



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