届屋ぎんかの怪異譚
「わかってるわよ。……萱村の屋敷よね」
断定した銀花の言葉を、朔は否定も肯定もしない。
ただ黙って、険しい顔で路傍を見つめている。
どうなんだ、と確認するように猫目に視線を移すと、猫目は困ったように笑った。
「あたしも一緒に行く」
「おまえを連れてはいけない」
「肝心なところで何も答えてくれないのに、こんなときだけ返事が早いのね」
「なんと言われようと同じだ。おまえを連れては行かない」
朔は銀花の目を見ない。
「どうして?」と、強気を装って問いつめた銀花の声は、自分でも情けないくらいに弱々しい。
「おまえには関係ないからだ」
ズキ、と胸が痛んだ。
所詮は他人だと言われた気がして。
唇を震わせ、ぎゅっと噛んだ。
そうしていると、胸を締め付ける痛みに苛立った。
小さな苛立ちに力を借りて、銀花は一歩、足を踏み出す。
「……関係、ない?」
こんなにも、大切なのに。こんなにも失いたくないのに。
――関係ないはず、ないじゃないか。