届屋ぎんかの怪異譚
怒りとともに突如胸のうちに沸いてきた衝動のまま、銀花は朔のもとへ、ズカズカと歩いていく。
前へ進むと、冬の夜の冷たさが肌を刺した。
目の前まで来てもまだ、朔は銀花の目を見ようとはしない。
夜に溶けて消えてしまいそうな墨染の衣に、追いすがるように手を伸ばす。
そして銀花はそのまま朔の胸ぐらを掴むと、ぐい、と引き寄せた。
引きむすんだ銀花の唇と、驚きで少し開いた朔の唇が合わさる。
少し前から速くなっていた心臓の鼓動をきっちり七つ数えて唇を離すと、唖然としたような顔の朔と目が合った。
「やっと目を見たわね」
唇の端を上げて、銀花はしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべる。
朔の衣は、掴んだまま。
離れないでとすがるように、強く。
「関係なら大ありよ! あたし、あれが初めてだったんだから。責任取ってもらわないと困るの!」
むちゃくちゃだ。
それはわかっている。
けれど、そうでもしないと繋ぎとめられない。
「さ、わかったら行くわよ」
胸ぐらから手を離して、けれどすぐに朔の手首を掴んで、銀花は言った。