届屋ぎんかの怪異譚
まるで脅しみたいだ。そう思った。
脅しだってかまわない、とも。
それで朔と離れないで済むのなら、何だってかまわない。
「朔に先に行かれると、あたしは白檀さんと話ができなくなるでしょ。それじゃあ困るの。だから、あたしたち、一緒に行くのが一番良いのよ。わかるでしょ?」
朔が口を挟めないように、ベラベラと早口で銀花は言う。
一つ息継ぎを挟んで、それに、と続けた。
「朔は、目的を果たしたら、あたしに何も言わずどこかへ行ってしまうでしょ。それが、……なにより困るのよ」
祈るような気持ちで、朔の胸ぐらを掴んだ手に力を込めた。
言いたいことをすべて吐き出してしまうと、また涙が出そうになった。
けれどうつむかずに、じっと、朔の目を見つめた。
目をそらせば、今言ったことすべて、朔に届かなくなってしまう気がして。
朔は何も言わず、ただじっと銀花の目を見返していた。
驚きで唖然としているようにも、何を言うべきか考えあぐねているようにも見えた。
銀花もその瞳に緊張と怖れを揺らして、朔の言葉を待っている。
張りつめた沈黙の中、吐息とかすかな風の音が、やけに大きく聞こえた。