届屋ぎんかの怪異譚
「……なんで、わかるんだよ」
長い長い沈黙の末に、朔はぽつりと言った。
一瞬、何のことだかわからなくて、けれどすぐについ先ほど銀花の言ったことに対しての言葉だとわかって、あぁやっぱりそのつもりだったのだと、胸が痛んだ。
「わかるよ」
だって、ずっと見ていた。
愛しさを自覚したのはつい先ほどだったとしても、きっと、もうずっと見ていたのだ。
「だって、朔は優しいもの」
ずっと見ていて、それを知った。だから。
「復讐を果たしたら……どんなに憎くても、どんなに恨んでいても、朔はきっと、家族を手にかけた自分を責めるでしょ。そしたら朔は、きっと独りを選ぶと思ったの」
そんな気がしたの、と、無理やりに笑顔を作ってみた。
女の勘ってやつよ、と、冗談めかしてみた。朔に笑ってほしくて。
けれど。
朔がくしゃりと顔を歪めた。
今にも泣き出しそうに見えた彼に、銀花は目を大きく見開いた。
反射で朔に手を伸ばそうとした、その瞬間、何が起きたのかもわからないままに、銀花は朔の広い胸の中に抱きしめられていた。