届屋ぎんかの怪異譚
頷き、呼びかけた銀花に、猫目が首をかしげる。
すこしいたずらっぽい、けれど優しい、いつもと同じ笑みを浮かべて、小さい子どもをあやすように、「どうした?」と、彼は言う。
そっと、手を伸ばした。
猫目の左の肩に、そっと触れる。
――たしか、心の臓の、すこし上のあたり。
「銀花?」
「あった」
銀花と猫目の声が重なった。
手を触れた左胸の、肌がほんのすこし、真横に盛り上がっているのが着物の上からでもわかる。
それが矢を受けた傷だと、銀花は知っていた。
「やっぱり、あなただったんだね、猫目」
知っていても、確信があっても、やっぱり、と思わずにいられない。
萩に見せてもらった記憶の持ち主の声は、知っているよりもすこし幼かった。
――けれど、たしかに猫目の声で。
あのとき彼に負わせた傷を、そっと撫でる。
十五年、経った今でも、跡の残って消えないその傷。
「父様と母様を、守ろうとしてくれて、ありがとう」