届屋ぎんかの怪異譚
立ち止まって、深く、深く頭を下げた。
朔と対峙したときは耐えきれた涙が、 今になってこぼれた。
一筋、二筋頬を伝うそれを止めようと、袖の端で顔を抑える。
「やだなぁ、俺、女の子の泣き顔には弱いんだからさ、やめてよ銀花」
猫目が言うと、猫目の肩に乗っていた二藍と今様が軽々と跳んで銀花の肩に移った。
今様は顔を銀花の左の頬に寄せてすりすりと押しつけ、二藍は尻尾でさわさわと銀花の右の頬を撫でる。
「ふふ、くすぐったいよ。……ありがとう」
笑うと、大きな手が頭に乗せられた。
まるで労わるように優しく頭を撫でるその手に、また涙がこぼれそうになった。
「礼なんか、言わないでよ。……結局、……れなかったんだから」
こぼれた小さなつぶやきは、守れなかったんだから、と言ったように聞こえた。
あぁ、このひとに、消えない傷を残してしまった。
消えない、後悔と、自責を。
それが悲しくて、だから銀花は頭を下げたままで、何度も、何度でも言った。
ありがとう、と。