届屋ぎんかの怪異譚
✿六、銀の花よ届け


✿六、銀の花よ届け


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夜の闇に静かにたたずむ屋敷は、ひっそりと息づく化け物のように見えた。


どうやって入るのか、と問うと、もちろん玄関から、といたって単純な答が猫目から返ってきて、銀花はほんのすこし拍子抜けした。


心のどこかで、白檀や晦にさとられないようこっそりと屋敷に入るものだとばかり思っていたのだ。


しかし考えてもみれば、招いたのはあちらだ。

こっそり入ったところで、朔たちが来ることくらい、先方もわかっているはずだった。



表門を押し開いて中へ入ると、玄関の石畳が弱い月の光に照らされて白く浮かび上がっていた。



ここが、朔の生家。

朔の育った家。

そして、すべてを失った家。



ちらりと、朔の横顔を盗み見る。

月の光で青白く見えるその顔からは、表情は読み取れない。


けれど、土足で廊下を進む、そのどこか荒々しい足音は、必死で感傷を押さえ込もうとしているように聞こえた。



今様と二藍の出してくれた狐火を頼りに、一行は進む。


朔は手当たり次第に次々と襖を開けていく。


誰もいない小間を、暗い台所を、書院を、土間を、通り過ぎていく。



そのたびに濃くなる、強い妖気と、――血の、匂い。



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