届屋ぎんかの怪異譚
最初は気づかないほど弱かったその匂いは、歩むごとに、奥へ進むごとに強くなっていた。
「朔、この匂い」
猫目が言うと、
「おかしい。十年前の事件の匂い、ではないな」
朔がそう言って、ちらりと玉響を見遣る。
「あぁ、これは新しい匂いだね。十年前のものではありえない」
と、玉響は答えた。
「あの事件の後、萱村と縁のある武家が遺体をきっちり弔ったはずだし、最低限の屋敷の掃除もしていたはずだよ。
たたみや壁に染みついた血がいくら落ちないって言ったって、これほど濃いわけがない」
この屋敷で、新たに死んだ者がいる。
それも最近で、一人や二人ではなくもっと大勢だ。
そして萱村の屋敷は、十年前の事件以来、気味悪がられて誰も近寄らない。
この匂いには十中八九、晦や白檀が関わっている。
それに、おかしいと言うならもうひとつ。
「どうして、誰もいないのかしら……」