届屋ぎんかの怪異譚
「朔、十年前、ここで亡くなったひとたちは、全部でどれだけいたの」
「はっきりとはわからないが……、三十か、四十はいた」
それだけの数の人間が、一夜にして突如死んだのに、ただの一人も強い感情を残さなかった――つまりは、誰もがみな安らかに、己れの死を受け入れて死ねた、などということがあるだろうか……?
ありえない。
はずだ。
一つの屋敷が血の海になるほどの殺戮があった事件だったのだから。
「朔」
教えて。
と言った声は、自分でも驚くくらいにかすれていた。
「萱村事件って、一体何なの。……朔は、何を、見たの」
朔は表情を変えなかった。
けれどその顔が、青ざめて見えるのはきっと、暗さだけのせいじゃない。
「……わからない」
銀花に負けないくらいにかすれた声が言葉を絞り出す。
「俺はただ、塗籠に隠れてたから、わからないんだ。……あの日、騒ぎに気がついたときにはもう、屋敷中が狂っていた」