届屋ぎんかの怪異譚
「それは事実だ。あの夜、萱村の家が滅んだのは、賊のせいでも水月鬼の呪いのせいでもない。萱村の人間が、全員で殺し合ったんだ」
すべての物音がなくなり屋敷中の人間が死に絶えた後に、朔は屋敷から逃げ出し、異変に気づいて屋敷まで来ていた玉響に保護された。
「そのとき、わたしは江戸に戻ってきたばかりでね。とんでもない妖気を感じて、屋敷の前まで来ていたのさ」
駆けつけたときにはすべてが終わっていたけれどね、と、玉響は皮肉めいた笑みを唇の端に乗せる。
「わたしにそのときわかったことは二つ。萱村の事件に、何か強い妖が関わっていたこと。そしてもう一つ、白檀が、わたしの結界を壊したこと」
それまで黙って聞いていた猫目が、パッと顔を上げた。
このことは初耳だったようだ。
「玉響さん、それってどういう……」
「山吹を失ったあの日から、わたしは強い妖や悪意をもったものが屋敷に入らないよう、萱村の屋敷に結界を張っていたんだ。……また友に何かあれば、すぐに駆けつけられるようにね。けれど、あの日、あの結界を破ったのは間違いなく白檀だった」