届屋ぎんかの怪異譚
何の前触れもなく、突然狂った殺人鬼と化した、屋敷の人々。
事件の後に行方をくらました、白檀と晦。
事件の夜に結界を解いた白檀。
わざわざ結界を解く理由は――結界に阻まれては困るものを、引き入れるためではないのか。
つまり――萱村事件は、白檀の引き入れた妖によって引き起こされた。
屋敷に誰の霊も残っていないのはきっと、魂すらもその妖に喰われてしまったのだろう。
そして何らかの形で、白檀と共に消えた晦も関わっているのだろう。
「消えた二人をずっと探していた。……一族の仇を取るために。ついて来るなら勝手にしろ。だが、俺を止めようとするなら――」
再び歩きだしながら、朔は低く言う。
猫目でも玉響でもなく、その言葉は自分に向けられているように、どうしてだか銀花には思えた。
「……そのときは、斬る」
銀花は答えず、ただ朔とすこし離れて後ろをついて歩いた。
――腹の内などもう決まっていたが、それを朔に言う義理などない。
最後の一部屋の襖を開けた朔が、刀に手をかけた。
普段使いの刀ではなく、蒼炎の妖刀の方に。
懐から袋を出して、銀花のあげた丸薬を口に含む。
そして大股で部屋を突っ切ると、向かいの襖を開けて中庭に出た。
いつの間にか雲が払われて、満月が煌々と夜空に輝いていた。