届屋ぎんかの怪異譚
「探されていることは知っていたわ。けれど姿を現さなかったのは、あなたには、会いたくなんてなかったからよ。……月詠と山吹を、救えなかったあなたになんて」
冷たく言い放つ白檀に、思わず声を上げそうになった銀花を、玉響が目で制す。
「晦様が現れたとき、あなたが生きていると知って嬉しかった。……けれど、そんな姿を見たかったわけじゃない」
苦しげに歪んだ猫目の表情。
その視線の先で、ズズ、と、地を這うような音が響く。
ゆったりと、白檀の体が持ち上がっていく。
先ほどまで影になっていた白檀の腰から先が、月明りのもとに現れる。
高く、高く白檀の体は持ち上がり、銀花の背丈の三倍はあろうかというところでようやく止まる。
女の腰から先に人間の脚はなく、代わりのように大蛇の胴がつながっていた。
白檀はずるずると大蛇の体で地を這い、長い胴を井戸から引きずりだす。
井戸を中心にぐるぐるととぐろを巻いた、その地面の土が大蛇の体にけずられて、わずかに白いものが覗いたのを銀花は見た。