届屋ぎんかの怪異譚



「どちらにせよ下衆だな」



朔が言って、刀に手をかけた。


白檀を斬る気か、と悟り、銀花は思わず朔を止めようと手を伸ばした。



瞬間、強い力で、ぐい、と引き寄せられた。


後ろ向きに倒れそうになる銀花を抱きとめたのは玉響だ。


そのとき、目の前が蒼く染まった。



強い光に反射的に目を閉じて、その蒼が朔の刀の炎だと気づく。


キン、と高い音がこだまして、目を開けた先で、朔に剣戟をはね返された晦が跳びすさるのが見えた。



「どこにいるのかと思えば、屋根の上から来たか……」



玉響が言って、銀花を背にかばう。


その背に、小さくごめんなさいと呟いて、銀花は走りだした。



――ごめんなさい。ありがとう。けれど、かばわれるためにここまで来たわけじゃないの。



「銀花……!?」


玉響の呼ぶ声を背に、銀花は白檀の前に立った。



「あなたは……?」



胡乱げな眼差しを銀花に向け、白檀は問う。


冷たい目に睨まれて怯みそうになりながら、それでも銀花は笑ってみせた。



「……母様に、よく似てるでしょう」



< 257 / 304 >

この作品をシェア

pagetop