届屋ぎんかの怪異譚
「どちらにせよ下衆だな」
朔が言って、刀に手をかけた。
白檀を斬る気か、と悟り、銀花は思わず朔を止めようと手を伸ばした。
瞬間、強い力で、ぐい、と引き寄せられた。
後ろ向きに倒れそうになる銀花を抱きとめたのは玉響だ。
そのとき、目の前が蒼く染まった。
強い光に反射的に目を閉じて、その蒼が朔の刀の炎だと気づく。
キン、と高い音がこだまして、目を開けた先で、朔に剣戟をはね返された晦が跳びすさるのが見えた。
「どこにいるのかと思えば、屋根の上から来たか……」
玉響が言って、銀花を背にかばう。
その背に、小さくごめんなさいと呟いて、銀花は走りだした。
――ごめんなさい。ありがとう。けれど、かばわれるためにここまで来たわけじゃないの。
「銀花……!?」
玉響の呼ぶ声を背に、銀花は白檀の前に立った。
「あなたは……?」
胡乱げな眼差しを銀花に向け、白檀は問う。
冷たい目に睨まれて怯みそうになりながら、それでも銀花は笑ってみせた。
「……母様に、よく似てるでしょう」