届屋ぎんかの怪異譚
白檀の瞳が、これ以上ないくらいに大きく見開かれる。
蛇の体を低くして銀花と目線を合わせると、白い手でそっと、銀花の頬に触れた。
「銀花、ね? そうなんでしょう? 山吹の娘の……。――あぁ、生きていたのね……」
声と同じように、触れる指は震えていた。
うるんだ瞳を見つめ返して、泣きそうになるのを銀花は懸命にこらえた。
――このひとだって、決して、最初から悪い人なんかじゃなかったのに。
萱村秀英にしてもそうだ。
秀英は――猫目の記憶の中で見た彼は、最初はきっと、山吹が好きなだけだった。
山吹が好きだったから、月詠を憎んだ。
山吹が好きだった、それだけのことが、山吹と月詠の命を奪い、白檀の心を壊し、朔の心を歪めた。
「あなたに、二つ、聞きたいことがあって来ました」
一歩、白檀に近づく。
「あなたが江戸中の縊鬼をかき集めた理由を聞きたい」
「それはさっき――」
「違う。あれだけじゃないでしょう?」