届屋ぎんかの怪異譚
頬に触れた白檀の左手に、そっと、右の手を添える。
「死んだ人間の目を集めるだけなら、使うのは縊鬼じゃなくてもよかった。他のいろんな妖を見つけるほうが、縊鬼ばかり集めるより簡単だし、死因もバラバラにできるから変に目立ったりしない。
逆に、縊鬼ばかり使っては、江戸で首吊りの事件が増えて必ず誰かが不自然に思うはずだわ。それなのに、あなたはあえて、縊鬼ばかりを集めて使った」
増殖するから。
それもひとつの理由だろう。
縊鬼によって死んだ者は縊鬼となることが多い。
そうやって手駒を増やせることも理由にある。
けれど、それだけじゃないことを、銀花は知っている。
「――母様は首を吊って死んだ。違う?」
白檀の目が見開かれる。二度目に。
ああ、やっぱりそうなのか。
ぎゅっと握りしめた左手を、銀花は無意識のうちに胸に当てた。
「……そう。そうよ。秀英が連れ帰った山吹は、あまりに暴れるから、座敷牢に入れられた。わたしは会わせてもらえなかったけれど、ご飯も食べずにどんどん衰えていっていると、侍女たちが話しているのを聞いたわ」