届屋ぎんかの怪異譚
「冗談やめてよ! そんなことさせないわ!」
銀花は助けてくれた恩など完全に忘れ、青年を睨みつける。
「風伯は何も悪いことしてないでしょう! どうして斬られなきゃいけないの!」
風伯の前に立ちふさがって、銀花は両腕を広げた。――絶対に退くもんか。
青年は無言で銀花を見下ろす。
小柄な銀花よりも頭一つ以上は背の高い青年の冷たい視線を、
しかし銀花は眼をそらすことなく、まっすぐに睨み返した。
二人の視線がぶつかり合い、拮抗する。
やがてため息とともに目をそらしたのは、青年のほうだった。
心底不服そうな顔をしながら、青年は刀を鞘に収める。
蒼い炎は、それも鞘に収まってしまったように、刀を収めると同時に消えてしまった。
一つ息をついて、青年は再び銀花を見下ろす。
――その顔が、青白い気がするのは、気のせいだろうか。
「おまえ、江戸に住んでいるのか」
「……え、ええ」