届屋ぎんかの怪異譚



――俺はさ、朔。ありえないことだとわかっているけど、かすかに期待していたんだ。この十年、あのひとを探して、もし見つけられたら、……萱村が滅んだ今、あのひとはただの、あのひとになるわけで。だから……。



二人で萱村の屋敷へ向かおうとした、つい先刻のこと。


銀花と出くわす直前、独り言のように猫目は言った。



――ともに、生きられるかもしれないと。ほんのすこしだけ、思ったいたこともあったんだ。



見たこともないような寂し気な目をして、そう言っていた。



予想もしなかった白檀の今の姿に、たしかに失望したかもしれない。


けれど、それでも猫目は白檀を見るとき、ずっとあのときと同じ目をしていた。



祈るような気持ちで猫目を見た。


猫目が気づいて朔に視線を寄越す。


目が合って、一瞬、猫目は驚いたようにかすかに目を瞠った。


そして――かすかに笑って頷いた。



「すみません、俺、一つ嘘をつきました」



猫目の声に白檀は顔を上げる。


それまでの迷いに揺れる声じゃない。


何かを決意したように、その声はまっすぐに凛と響いた。




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