届屋ぎんかの怪異譚



(よっぽどあなたが好きなのねぇ)



ふいに声が聞こえた。


知っている、女の声だ。


銀花は自分の躰が、誰かに押し上げられるようにふわりと浮かび上がるのを感じた。




あたりを見回して声の主を探しても、その姿は見えない。



白檀、どこなの……?


声は出せない。


けれど白檀は、すぐそばにいるわ、と応えた。



姿は見えないけれど、たしかに彼女の言うように、声はすぐそばから聞こえた。



(わたくしはもうずぐ消えるけれど、最期にあなたにお礼が言いたかった)



消える? どういうことなの。



(晦の魂を、救ってくれてありがとう。おかげでわたくしも、これでやっと死ねる)



白檀の言葉に、銀花は目を瞠った。

――やっと死ねる、と彼女は言った。


彼女の目的は、萱村の血への復讐ではなかったのか。



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