届屋ぎんかの怪異譚
(本当は、もう復讐なんて半分はどうでもよかったの。けれど、晦の命を繋ぎとめるために、わたくしは犬神を使った。
怨念の塊のような犬神を御するために、殺戮を望み続ける犬神が――晦が、わたくしから離れていかないように、復讐を言い訳にしていた。
……大切なものをたくさん失って、我が子までそばを離れるのは耐えられなかった)
穏やかに、白檀は言った。
姿は見えないけれど、柔らかく笑っている気がした。
(長く犬神と一緒にいるうちに、妖気にあてられていつしか犬神の怨念を自分のものと錯覚していたわ。
けれど、あなたたちが来て、朔を想うあなたと、あなたを想う朔を……ずいぶんと成長したあの子を見て、目が覚めたわ)
ばかね、と白檀の声が笑った。
(わたくし、あなたたちを、羨ましいと思ったの。……本当は、あのひとと、あなたたちのようになりたかったの)
小さな小さな告白は、もう届かない何かを、諦めるように寂しく響いた。