届屋ぎんかの怪異譚
(それに、山吹の娘であるあなたが大切にしているのなら、もう朔は殺せないわ。……最後に山吹に会って、山吹の娘に命を与えた。
懐かしいあの子と、もう会えないと思っていた友と、話ができた。十分すぎる最期だわ)
徐々に、徐々に、光が遠ざかる。
闇が薄くなって、水面が近づくのがわかる。
まって、と、叫ぼうとしても声が出ない。
(ごめんね。ありがとう。達者で、生きて……)
声が、響いて、消えた。
最後に、とん、と背中を押された気がした。
水面が近い。右の手には、誰かの手の暖かさ。
あたしはこの手を離さない。
あなたの羨んだあたしたちで居続ける。
だから、さよなら。
――そうして銀花は目を覚ました。
ごとごとと、体を揺らす感覚が頭に響く。
ゆっくりと開けた視界に、まず映ったのは、目を閉じた朔の顔だった。
「……さ、く」
そっと呼んだ声はかすれていた。
朔は目を閉じたまま、起きる気配がない。