届屋ぎんかの怪異譚
触れようと、手を伸ばそうとして、そのときにようやく、朔の手が右の手を握っていることに気が付いた。
「銀花、起きたの?」
ふいに猫目の声がして、銀花は目を上げる。
どうやら銀花は、牛車のようなものに乗っているようだった。
御者台から顔を出した猫目が、「おはよう」と笑った。
「って言っても、まだ夜だけどね」
「……じゃあ、あたし、そんなに寝ていたわけじゃないのね」
「そうだよ。いろんなことがあったのに、まだ夜なんだ」
猫目が前に向き直る。
夜って長いんだなぁ、と、独り言のように彼は言った。
そうだ、いろんなことがあった、と彼は言った。
白檀はどうなったのだろう。
晦はどうなったのだろう。
その答えを知っている気がした。
先刻の夢が頭をよぎった。
嫌な予感と、静かな諦めに似た覚悟が、やけに冷静に心を満たす。