届屋ぎんかの怪異譚
猫目に尋ねようと身を起こそうとした銀花だったが、ふいに額を大きな手で覆われて、持ち上げようとした頭を戻されてしまった。
「まだ寝てろ」
目を上げると、朔が仏頂面で言う。
そうか、朔の膝で寝ていたのか、と遅れて気づき、銀花は顔が熱くなるのを感じた。
「朔、起きたのね」
照れ隠しのように妙に明るい声で、銀花は言った。
「……体は、どうだ。痛むところはないか」
朔の言葉に、銀花はハッとする。
――そうだ。たしか胸を刺されたはずだ。
顔を上げて自分の胸元を見下ろすと、着物が切れてべっとりと血がついていた。
けれど、どこも痛まない。
「どうして、なんともないの」
朔が、そっと目をそらす。
嫌な予感に、鼓動が早くなる。
「白檀が、治した。……命と引き換えにして」
ズキ、と、傷が塞がったはずの胸が痛んだ。