届屋ぎんかの怪異譚
二人が犬神と対峙している間に、白檀が自分の生気を銀花に移して傷を治してくれたという。
そして自分の命を使い切った彼女も、塵となって消えてしまった。
今ここにいない玉響は、屋敷に残って二人の弔いをしているという。
「結局、お前の思い通り、俺の復讐は見事に邪魔された。もう二度と叶わない」
銀花は朔の顔を見上げて、わずかに目を見張った。
どうして。口ではそう言って銀花を責めているのに――。
「どうして笑ってるの?」
そっと、手を伸ばして朔の頬に触れると、その手に朔の大きな手が重なった。
「――もう、いいんだ。復讐なんか、どうだって」
降る言葉は柔らかく、どこまでも優しい。
「お前が刺されたとき、ぜんぶ頭のなかから消えていった。白檀への憎しみも、お前を刺した晦を許せないと思う気持ちも、ぜんぶ遠くにいって、ただ、失いたくないと、思ったんだ」