届屋ぎんかの怪異譚
半妖の銀花の力では、つい先ほど山吹の魂を媒介に晦一人の魂を送るのが精いっぱいだ。
けれど、水月鬼の長であった月詠であれば、犬神に喰われた魂すべてを幽世へ送ることができるかもしれない。
「そのためには、一度封じた犬神を解放する必要があるわ。朔、猫目、協力してくれる?」
言うと同時に、朧車が止まった。
御者台に座る猫目が、しょうがないな、というふうに苦笑している。朔も頷いた。
「もうすぐ夜が明ける。すぐに始めましょう」
銀花が言って立ち上がる。
「届屋銀花、一世一代の大仕事だわ」
冗談めかして言うと、銀花は朧車から降りた。
二人も銀花に続く。
夜とはいえ江戸の街中で犬神の封印を解くのは気が引けるが、場所を変えている時間はない。
猫目の肩に乗った今様と二藍が、軽く尾を振って周囲に結界を張った。
猫目が手に持っていた刀を足元に置いた。
それは? と目で問うと、「晦の刀だ」と、代わりに朔が答えた。
「あれに封じてる」