届屋ぎんかの怪異譚
隣で朔が息をのむ気配がした。
銀花の前に、うっすらと、光が集まる。
月の弱い光をかき集めるようにして集まってくる光は、やがて輪郭を持ち、ゆっくりと、夜の闇に人の形が浮かび上がる。
目鼻立ちまではわからない。
けれどその柔い光の粒の集まりは、背の高い、髪の長い男の姿をしていた。
「犬神にとらわれたみんなを、連れて行って」
銀花の言葉に、男は――月詠の魂は小さく頷き、犬神に手をかざした。
すると、犬神の体のまわりに、ぽっ、と、珠のような光が灯り始める。
ぽつ、ぽつ、と光は増える。
やがて無数に光は浮かび上がり、付かず離れず、あたりを漂う。
そのひとつひとつが、食われた者の魂だった。
光が増えていくにつれ、犬神の唸り声は憎々しげになる。
しかし、今様と二藍が神通力で抑えているので、身動きは取れないようだ。
徐々に、徐々に声は弱まる。
蓄えた力を削ぎ取られていき、犬神の妖力はみるみる弱まっていった。