届屋ぎんかの怪異譚
そして――ぱっ、と、弾けるように犬神の体が霧散した。
その心の臓のあったあたりから、白い光がゆらりと浮かび上がり、あたりを漂う光の群れの中に混ざっていった。
月詠が、犬神に食われた魂だけでなく、犬神に転じた犬の魂すら掬い上げたのだ。
ふわふわと、風に揺れるように見える魂の群れは、けれどふわふわと漂いながらも、ゆっくりと月詠のまわりに寄り集まる。
その光のうちの一つが、他の光の流れに逆らい、ふいに光の群れを大きく離れた。
驚いた銀花が目で追う先で、その光は朔のまわりを一度、二度と回る。
戸惑う朔の顔の前で、ほんのすこしとどまって、そうして元の光の群れに戻って行った。
探しても、もう他の光と区別がつかない。
「今の……」
呆然としたように、朔がつぶやく。
その先は言葉にならなかったが、言わんとすることはわかった。
銀花は朔の背をそっとたたいた。
「きっとそうよ」