届屋ぎんかの怪異譚



風伯と別れた娘は山林を抜け、薄暗い農村をぶらぶらとさまよった。



もうほとんどの村人が農作業を終え、家に帰った頃だ。


辺りには人の姿はほとんどない。



娘はやがて、一軒の家の前で立ち止まった。


そして、その戸口に「ねえ」と声をかける。



戸口には十歳ほどの少年が一人、じっとうずくまっていた。



「あなた、そこで何してるの? こんなに寒いのに。風邪を引いてしまうわ」



問われた少年はのろのろと顔を上げた。

小さな顔は青白くなって、年頃に似つかわしくない、真っ黒なくまが目の下にあった。



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