届屋ぎんかの怪異譚
「すっかり夫婦みたいになっちゃって。ねぇ、糺さん」
「俺ぁ一人娘が嫁いだみたいな気持ちでやりきれねぇや」
「俺だって、妹がもらわれていく兄の気持ちだよ」
「ちょっと」
真っ赤な顔で二人を睨みつけて、銀花が言う。
「聞こえてるわよ、二人とも」
「はいはい、ごめんね銀花」
ひらひらと手を振って謝る猫目が、悪いと思っていないことなど一目瞭然だ。
もう、と、ため息を吐きながら、銀花は横目で朔の顔をうかがった。
朔はなにか考え事でもしているように、真剣な面持ちで黙っている。
このところ、朔はずっとこの調子だ。
すこし前までは、猫目がこの手のからかい方をすると銀花と一緒になって顔を赤くしたものだが、近頃はこういう話になれば決まって黙りこんで考え込むようになっていた。
そういう朔を見ると嫌でも思い出す。
――朔がもとは、復讐を果たしたら黙ってどこかへ行ってしまうつもりだったこと。