届屋ぎんかの怪異譚



支度を終えて、朔が戸を開いた。



「それじゃあ、行ってくる」



「道中、気ぃつけてな」と糺。



「ん、行ってらっしゃい」と猫目。



今様と二藍は、そろって猫目の肩で尻尾を振った。



外に出るととたんに吐く息が白くなった。


まだ冬の寒さも盛りで、ひんやりとした空気が頬を刺す。


その鋭い冷たさを感じるたび、銀花はあの夜の寒さを思い出す。



もう、あれからひと月が経った。



「わざわざ見送りに来なくても、すぐ帰ってくるって言っただろ」



「それでも行くって言ったでしょ」



まだ夜が明けきらず、空は薄暗い。


道行く人もまばらで、二人の声はやけに大きく聞こえた。



「ねぇ、やっぱり風伯に送ってもらったらいいじゃない。この寒さだし、歩きで行くのは大変でしょう?」



「いい。あんまり風伯にばっかり頼りすぎると体がなまりそうだ」



にべもない朔の返事に、銀花の不安がまた大きくなる。



< 301 / 304 >

この作品をシェア

pagetop