届屋ぎんかの怪異譚
支度を終えて、朔が戸を開いた。
「それじゃあ、行ってくる」
「道中、気ぃつけてな」と糺。
「ん、行ってらっしゃい」と猫目。
今様と二藍は、そろって猫目の肩で尻尾を振った。
外に出るととたんに吐く息が白くなった。
まだ冬の寒さも盛りで、ひんやりとした空気が頬を刺す。
その鋭い冷たさを感じるたび、銀花はあの夜の寒さを思い出す。
もう、あれからひと月が経った。
「わざわざ見送りに来なくても、すぐ帰ってくるって言っただろ」
「それでも行くって言ったでしょ」
まだ夜が明けきらず、空は薄暗い。
道行く人もまばらで、二人の声はやけに大きく聞こえた。
「ねぇ、やっぱり風伯に送ってもらったらいいじゃない。この寒さだし、歩きで行くのは大変でしょう?」
「いい。あんまり風伯にばっかり頼りすぎると体がなまりそうだ」
にべもない朔の返事に、銀花の不安がまた大きくなる。