届屋ぎんかの怪異譚
「当たり前でしょ。あのときも言ったじゃない」
そっと唇を離して、銀花は言った。
「あれが初めてだったんだから。責任取ってもらわないと困るって」
言葉の威勢のよさとは裏腹に、銀花は朔の胸ぐらにしがみついたまま、顔を伏せていた。
恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
頭の上で、朔が笑う気配がした。
銀花の頬に朔の手が触れた。
――と思ったら。
顎をくい、と上げられて、気が付いたら唇が重ねられていた。
銀花の、ぶつかるような口づけとは違う。
優しく、柔く、包み込むような――。
不思議だ。
不安なんて吹き飛んだ。
離した唇に、雪のひとひらが触れて、溶けた。
「……早く、帰ってきてね」
そう言って肩に顔を埋めると、朔は頷いて、そっと背を撫でるように抱きしめてくれた。
朔の腕の中で顔を上げる。
日の昇りかけた薄青い空から降る雪は、白銀の花びらのように見えた。
届屋ぎんかの怪異譚 結