届屋ぎんかの怪異譚
そう言ったはいいが、銀花は途方に暮れていた。
銀花に風伯と青年の両方を背負うだけの力はない。
かと言って、どちらかをこんな何もない野原に置いていくのも心配だ。
うーん、どうしよう。と、銀花が唸ったそのとき。
「おーい!」
知った男の声に、銀花は顔を上げた。
見れば、江戸の街の方向から近づく灯りが一つ。
ゆらゆらと揺れながら近づいてきて、やがて走ってくる人の足音が銀花の耳に届く。
「おーい、あんた、江戸に行くのかー?」
少し間延びした呼び声に、銀花は安堵のため息をつく。
「おーい! 糺(ただす)さーん!」
大きく手を振って、男の名を呼んだ。
「え、銀花ちゃんか!?」と、驚く男の声が聞こえてから、しばらく。
息を切らして銀花の前で立ち止まったのは、やはり糺で間違いなかった。