届屋ぎんかの怪異譚
刀の蒼い燐光はいつの間にか消え失せ、今はただ、年若い浪人風の男が倒れているだけ。
がしゃどくろに襲われた、などと言えば糺はえらく心配するだろう。
その男をどう説明するべきか。
「そうなの……えっと、賊から助けてもらったんだけど、……あの、行き倒れちゃって!」
慌ててひねり出した言い訳は、なんとも間抜けなものだった。
糺に変に思われただろうか、と、銀花がそっと糺の顔色をうかがうと。
「行き倒れかあ。そりゃあ若えのに難儀なこったなあ」
と、労わるような目で青年を見る。
(糺さんって、本当に単純……)
昔から糺は良くも悪くも単純な男だった。
なんでも信じ込んでしまって、それで痛い目を見ても人を疑うことを知らない。
「よし! 江戸まで運んでやるか」と腕まくりをする糺を見て、銀花はゆるやかに微笑む。