届屋ぎんかの怪異譚
「ありがとう、糺さん」
糺に頭を下げて、銀花は風伯を抱き上げた。
風伯が見えない糺が不思議そうな顔をするが、
銀花が「風伯も倒れちゃったの」と、ひとこと言うとすぐに納得したような顔をした。
幼い頃から銀花を知っている糺は、銀花に妖が見えることも知っていた。
妖の存在を信じない者は多いが、そこは糺だ。
いると言えばいるのだと信じてしまう。
だからこそ銀花も、糺には気兼ねなく「風伯がいる」などと言えるのだ。
「本当に、糺さんが来てくれてよかった」
再び言った銀花に、糺は照れたような笑みを浮かべてみせる。
糺は青年を、銀花は風伯をそれぞれ背負って、二人は江戸の我が家へ歩き出した。