届屋ぎんかの怪異譚
舌打ちをして、意味もなく刀の鍔を撫でる朔に、糺は「なぁ、朔」と声をかけた。
「朔は妖が嫌いみてぇだが、見えんのかい? 妖刀なんか持ってるし、あんた何なんだ?」
その問いに、朔は「退治屋だ」と答えた。
「妖は人に仇なすもの。それを退治する。江戸にも仕事のために来た」
「へえ。江戸に来るまでは、どこにいたんだい?」
「どこにでも。退治屋をしながらいろんなところを渡り歩いていた」
糺は再び、へえ、と感心したように言う。
「じゃあ、あんたはすげえ退治屋なんだな」
明るい笑みでそう言われ、朔は怪訝な顔をした。