届屋ぎんかの怪異譚
「なんでそうなる」
「え、だってそうだろ?」と、糺は不思議そうな顔をした。
「一所に留まらねぇで流れていくやつってのは、人に忘れられやすい。
だから、江戸まで噂が届くほどの腕ってぇのはなかなかすげえもんだ」
「たしかに普通そうかもしれないが……、俺の場合は、違う」
朔は切れ長の目を伏せた。
「俺は、ただ妖を片端から斬っていただけだ」
どこか険しい顔でそう言った朔に、糺はそれ以上なにも言わなかった。
しばらくの沈黙の後、朔は「じゃあ、俺もそろそろ行く」と言って立ち上がった。
「馳走になった。礼を言う」
「馳走なんて豪勢なもんじゃねえけどな。まあ、また来いよ」
糺の言葉に、笑みと呼べるかもわからないほど小さな笑みを返して、朔は背を向けて歩き出した。