届屋ぎんかの怪異譚
その背に、糺は「あ、忘れてた」と言葉を投げる。
「銀花ちゃんと仲良くしてやってくれな!」
そう言った糺に、朔は振り返りもせずに「あっちにその気があればな」と返す。
だんだん遠くなっていく朔の背中を見送りながら、
糺は「難儀なもんだなあ」と呟いて、ぽりぽりと頬を掻いた。
人であれ妖であれ、誰にでも人懐こい銀花が、誰かをあからさまに嫌うことは珍しい。
糺が知る限りでは、今まで一度もなかった。
だからこそ、朔にはもっと銀花と関わってほしいと糺は思っているのだが。
「うーん、難しいもんだなぁ」
ぼやきながら、糺は朝餉のお椀を片付け始める。
――そのすぐ後に望みが叶うなどと、そのときは知る由もなかった。