届屋ぎんかの怪異譚



銀花が言うと、白狐――今様は首を巡らせて戸の方を見た。


つられて銀花も同じ方向を見る。



「……猫目!」


店の戸口に、男が一人もたれて立っていた。



「やあ、銀花」


猫目と呼ばれた男が、ひょい、と手を挙げる。



「猫目、おかえりなさい」


「ん、ただいま。俺がいなくて寂しかった?」


低く、どこか甘ったるい声で冗談めかして猫目は言う。


すると、その肩に乗った黒い狐が、小さな声で「気色わる」と呟いた。



「二藍(ふたあい)はひどいなぁ」と、猫目はけらけら笑う。


二藍と呼ばれた黒狐は、ふん、とそっぽを向いた。

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