届屋ぎんかの怪異譚



銀花が言うと、一人と二匹は「どこがだよ!?」と、声を揃えて言った。



薄暗く静かだった店内が急に騒がしくなった。


時間は夜に近づいたはずなのに、銀花には心なしか店内が明るくなったように見える。

猫目がいるだけで、こんなに違う。



猫目は、猫目というのが本名ではない。


本名を、銀花は知らない。尋ねても教えてくれないのだ。


だから、猫目というのは銀花の勝手につけたあだ名だった。


彼のつり目がちの大きな瞳が、どこか猫を思わせるから。



猫目は妖の退治を生業とする退治屋で、仕事のためにここ十数日は旅に出ていたが、

本来は橘屋の向かいの長屋――つまり、朔の住む長屋の住人なのだ。


五年ほど前に長屋に移り住んできて、銀花とはそれ以来の付き合いになる。




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