届屋ぎんかの怪異譚



娘はにっこりと微笑み、


「ただの旅の者です。もう用は済んだから、そろそろお暇(いとま)するわ」


と言うと、立ち上がって着物の裾をはたいた。



「待ってよ、ねえちゃん」



娘が下を向くと、少年が娘の着物の裾を掴んで、泣きはらした目で娘を見上げていた。



「ねえちゃんは、何者なの?」



おかしなことを訊く、と、娘は笑う。



少年は、娘は何者かと尋ねたのだ。

なぜ娘が少年の母を知っていたのかを尋ねるわけではない。

なぜ少年の母の荷を持っていたのかを尋ねるわけでもない。


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