届屋ぎんかの怪異譚
神狐は風伯と同じで、妖というよりも神や精霊の部類に入る。
神は人々の願いによって生まれ、人々に忘れ去られれば消えてしまう。
古くて小さな社に祀られたあの神狐は、きっと、消えてしまうのが怖かったのだ。
だから、唯一自分を大切に祀ってくれていた老婆が来なくなったことで、不安になった。
この江戸の町で、生きた神のいる「生きた社」は意外と珍しい。
この時勢、神を心から信じ祀る者はあまりいないのだ。
「小さいけれど、せっかく生きた社があるんだから、壊さないでいてほしいね」
眼下に流れる薄闇を眺めながら、銀花はしみじみと言った。
その薄闇の中にはいくつもの人の営みがあって、いくつもの妖の営みがある。