届屋ぎんかの怪異譚
✿三、満つる月の光の下
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✿三、満つる月の光の下
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萱村(かやむら)事件の話を糺が引っ張り出してきたのは、神狐の件があった二日後の朝餉のときだった。
例によって糺が知人から味噌をもらったので、銀花と朔、猫目を朝餉に招いてくれたのだ――が。
「最近、江戸で首吊りが流行ってるらしいなぁ」
と、突然とんでもないことを言われ、銀花は危うく味噌汁をこぼしそうになった。
「な、なにそれ!?」
「いやあ、言葉の通りだよ」
答えたのは猫目だった。
「この頃首吊り自殺が多い。ここ一月の間だけでも十三件だ。もちろん、江戸の中だけでね」
「そんなに多いの? どうしてそんな……」
思った以上に深刻な話に、銀花は眉をひそめた。