届屋ぎんかの怪異譚



だが十年前、萱村事件が起こった。


萱村家の一族郎党が、一晩で何者かに惨殺されたのだ。


長男の九つの誕生祝い、その前日のことだった。


長男が宴に着る着物を届けにきた呉服屋の主人が朝一番に訪れたときには、屋敷は血と肉片の海と化し、生きている者は塗籠に隠れていた長男だけだった。


次男と秀栄の妻、それから使用人が一人、行方不明になっていた。



普通に考えれば、下手人はその使用人、あるいは秀栄の妻だ。

だが、誰もそうは思わなかった。


血の海に浮かぶ白い肉片、落ちた首や四肢、切り落とされて誰のものかもわからなくなった腕には、それぞれ刀が握られている。


屋敷の惨状を見た誰もが「まるで一族の者たちが全員で一斉に殺しあったようだ」と証言していた。



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