届屋ぎんかの怪異譚



使用人や女のたった一人や二人が武家一族を惨殺するのは不可能だ。

萱村に退治された鬼の呪いでは、という噂のほうがまだ信じようがある。

結局十年経った今でも、事件の真実は謎のままなのだ。



「首を吊った奴を見た家族や使用人がな、みんな口を揃えて、首を吊った奴の背後に鬼みてぇな影を見た、っつってんだ。

事件からちょうど十年経つってのも、なんとなく意味深だろ? だから、萱村の鬼がまた現れたんじゃねえかって、もっぱらの噂だ」



そう言って、糺は止まっていた箸を進める。



「やー、江戸に来たばっかりなのに物騒なことになって、朔も災難だね」



朔の肩を労わるようにポンポンと叩いて言ったのは猫目だ。



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