届屋ぎんかの怪異譚
「もしかして君は――」
「何も言うな」
言いかけた言葉を、朔は遮った。
その反応が、猫目が言おうとしたことへの答えだ。
「やっぱり、そうだったんだね。あのときよりずいぶん大きくなったから、最初はわからなかったんだ」
ああ、こんな物言いじゃ失礼ですね、と言った猫目を、朔は睨んで黙らせる。
「何も言うな。何も訊くな。俺も、何も訊かない。俺はただの朔で、おまえはただの猫目だ。いいな?」
朔がそう言うのなら、猫目もこれ以上何も言うつもりはなかった。
うん、と頷いて、「それじゃあ」と一声かけると、猫目は到着した橘屋に消えていった。