届屋ぎんかの怪異譚



――――――――――


「あたし、この辺りってすごく久しぶりに来るわ」



通りの両側に並ぶ店を眺めながら、銀花は言った。



銀花の橘屋は日本橋の北側にある。

そして銀花が今いるのは、橘屋のある辺りと御城を挟んで真反対の麹町だった。



普段近所で大抵の用は済ませられるので、遠くないとはいえあまりこの辺りまで来ることはないのだ。



『以前にはいつ頃いらっしゃったのですか?』



すこし前を歩いて銀花を案内するあざみが、振り返って尋ねた。



「んー、そうね、ふた月は経つかしら。お店まで来られないお客さんに薬を届けに行ったの」



『ふた月前でしたら、わたくしもまだ生きていましたわ。もしかしたらすれ違っていたかもしれませんね』



あざみが言って、ふふ、と笑う。



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